続・平成18年度「国語に関する世論調査」について



2007年09月09日(Sun)
続・平成18年度「国語に関する世論調査」について
きのう書き忘れておりました。文化庁の「平成18年度『国語に関する世論調査』の結果について」が掲載されているページはこちらです。


問7 漢字を手書きで書こうとして書けないときに、漢字を調べる手段(選択肢の中から複数回答可)

この設問に対するおどろくべき回答は、新聞、ラジオ、テレビで報道されていましたね。携帯電話の漢字変換をその手段とするという回答は、16〜19歳が63.3%、20代が79.3%と跳ねあがり、30代が62.5%、以下60歳以上の8.9%まで直線的に下降しています。高校生では、知らない漢字を使用して文章を書くことが、大学生や、社会人になっての数年間にくらべて少ないということが関係しているのでしょう。

話題になっていた携帯電話の漢字変換機能で調べるという回答は、男性が28.9%なのに対して、女性は40.8%という結果です。ワープロやパソコンでの漢字変換は、男性29.9%、女性13.0%という結果ですので、パソコンを使用する女性が少ないことがみてとれます。携帯電話でメールを送ることも、女性のほうが多いのではないでしょうか。残念なことに、当該ウェブページには、年齢層別に男女それぞれの数字が書かれておりません。

読みかたを知っている漢字なら漢字変換で調べられるでしょうが、読みかたが分からない、あるいは、間違った読みかたで覚えている漢字は調べられませんね。


問10 「常用漢字表」について、次の二つの考え方のどちらに近いか
  A すべての常用漢字を,読めて書けるようにすることが望ましい
  B 一部の常用漢字については,読めるだけで書けなくてもよい

この設問は付問とはされていませんので、常用漢字表の存在を知らなかったひとも答えていることになります。常用漢字表の存在を知らないひとでも常用漢字自体は知っているという前提での設問と思えます。

           全体
Aの考えに近い    46.7%
Bの考えに近い    40.8%
どちらともいえない  10.4%

年齢層別の率をながめておりますと、個人差が大きいのだろうと思えます。ところが、別の設問への回答とのクロス集計結果では、ことばづかいに対する関心が強いひと、新聞を読むひと、パソコン・ワープロを現在使用しているひとに"Aの考えに近い"比率が高い傾向がみてとれます。ただし、極端な差異はありません。


問11 つぎに掲げる漢字が日常生活でどの程度使われていると思うか

常用漢字6字(遵、勺、逓、弐、厘、謄)と常用漢字表外漢字6字(誰、奈、頃、阪、痕、岡)について問うています。特定用途にしか使われていない常用漢字と、地名などで使われている表外漢字について聞いているのです。常用漢字表の作りかえが念頭にあるのでしょうか。

案の定、"よく使われている"という回答のあったのは、最低が"勺"の10.3%、常用漢字の最高が"厘"で33.7%でした。対して表外漢字は、"痕"の31.3%を別にすると、82.9%から89.7%という高率でした。

"ときどき使われている"をも含むと、常用漢字の"勺"は35.4%、"厘"は64.7%、最高の"弐"で67.4%ですが、表外漢字の"痕"は63.9%で、これ以外の表外漢字は93.6%から96.6%と非常な高率です。

奈、阪、岡を"まったく使われていない"とした0.5%から1.0%のひとは、奈良、大阪、岡山、福岡、盛岡、といった地名をも目にしたことがないという"ヘソまがり"なのですね。


問12は漢字で書くか、かなで書くか、という設問です。

常用漢字音訓表に書かれていない読みかたであっても漢字を使用する傾向が、「みなさんの期待にコタえたいと思います」(応)、「この仕事にカカワった人はたくさんいる」(関) に見られます。

常用漢字表外漢字を使う傾向も「完璧」「(寄せ)鍋」「鶴」に見られます。おもしろいことに、「憂鬱」の「鬱」を漢字で書く割合が、手書きのときには14.2%であるのに、ワープロ・パソコンでは71.5%であることです。「矍鑠が顰蹙をかう憂鬱さ(カクシャクがヒンシュクをかうユウウツさ)」という川柳を思いだしました。この川柳を漢字で手書きできるひとは そんなには いないことでしょう。書けなくたっていいのです。読めればね。


問13で、文書作成のためにワープロやパソコンをどの程度使っているかを尋ねており、現在使用中、過去に使っていた、というひとに対する付問で、それらを使用することについての感想を尋ねています。
《( )内は平成7年度の調査結果》

・漢字の書きかたを忘れることが多くなった
              ・・・・50.8%(38.5%)
・文章の中で漢字を多く使うようになった
              ・・・・42.9%(38.7%)

漢字を忘れる傾向が強くなったにもかかわらず、漢字を使用する頻度があがっています。反作用でしょうか。

パソコンで文章を作成していますと、かな書きするためには、パソコンに学習させなければなりません。購入したままですと、ほとんど、漢字に変換されてしまいます。この ことばは かなで書くのだよ と覚えさせなければならないのです。面倒です。しかし、この作業をしませんと、漢字たっぷりの文章になってしまいます。IMによっては、学年別漢字配当にあわせたり、常用漢字に限定したりすることができますが、かな漢字の"まぜがき"が発生してしまいます。やはり、学習させなければなりません。


問14では、漢字の多用傾向についての設問です。
 (ア)ワープロなどによって漢字が簡単に打ち出せるのだから、漢字をどんどん使っていくことは望ましい
 (イ)ワープロなどで漢字が簡単に打ち出せるからといって,必要以上に漢字を多く使うのは望ましくない

どちらの考えに近いかを尋ねています。
《( )内は平成10年度の調査結果》

           全体     16-19歳  60以上
(ア)の考えに近い 41.9%(39.4%)  55.7%   32.7%
(イ)の考えに近い 45.1%(45.0%)  39.2%   43.4%
分からない     13.0%(15.6%)   5.1%   23.9%

           16-19 男  16-19 女
(ア)の考えに近い    38.9%   69.8%
(イ)の考えに近い    52.8%   27.9%

若い女性は、漢字をたくさん使うことをカッコいいとでも思っているのでしょうか。

7月末日以前のこのブログをお読みのかたにはお分かりだと思いますが、わたしは(イ)の立場です。


問13で、ふたつの言いかたのどちらを使うかを、5つの例をあげて尋ねています。

(1)「混乱したさま」を
(a)上や下への大騒ぎ    ・・・・・58.8%
(b)上を下への大騒ぎ    ・・・・・21.3%
(a)と(b)の両方とも使う  ・ ・・・ 2.5%
(a)と(b)のどちらも使わない ・・・・12.9%
分からない           ・・・・・ 4.5%

(b)が本来の言いかたですが、少数派です。

こういう設問の中に驚くべきものがありました。

(4)「差し出て振る舞うものは他から制裁されること」を
(a)出る杭(くい)は打たれる ・・・・73.1%
(b)出る釘(くぎ)は打たれる ・・・・19.0%
(a)と(b)の両方とも使う    ・・・・ 2.5%
(a)と(b) のどちらも使わない ・・・・ 3.0%
分からない             ・・・・ 2.4%

(a)を本来の言いかたとしています。驚きました。「釘」を間違いだとした書籍は、「出る杭は打たれる」に書いておりますように、わたしが図書館で確認した範囲ではゼロでした。コンビニで売られていた文庫本に間違いだとしたものがあったものですから調べたのです。もともとは中国のことばで、「釘」が使われていたことばなのです。

こういう書きかたをされますと、「出る釘は打たれる」が間違いだということになってしまいます。いってみれば本家である「出る釘は打たれる」ということばに失礼なことです。わたしが見たうちでたったひとつの「出る釘は打たれる」を間違いだとしていた あの文庫本を書いたかたが文化庁の調査にかかわっていたのでしょうかねえ。

「60歳以上で本来の言い方である(a)『出る杭(くい)は打たれる』が6割台前半と最も低く,本来の言い方ではない(b)『出る釘(くぎ)は打たれる』が3割弱と最も高い」
と分析されています。年齢層ごとの数字を比較しての"最も低く" "最も高い"ということです。高齢者には、本来の言いかたである「出る釘は打たれる」を知っているひとが多いということがいえるのではないでしょうか。


問17は慣用句についての設問です。
《( )内は平成14年度の調査結果》

(1)役不足
(ア)本人の力量に対して役目が重すぎること
            ・・・・50.3%(62.8%)
(イ)本人の力量に対して役目が軽すぎること
            ・・・・40.3%(27.6%)

本来の意味である(イ)の比率が4年前にくらべて上昇しています。いい傾向ですね。しかし、まだ(ア)のほうが多いですね。いつ逆転するのでしょうかねえ。


(2)流れに棹(さお)さす
(ア)傾向に逆らって,勢いを失わせる行為をすること
            ・・・・62.2%(63.6%)
(イ)傾向に乗って,勢いを増す行為をすること
            ・・・・17.5%(12.4%)

これも、本来の意味である(イ)の比率が4年前にくらべて上昇しています。けれども、逆の意味に解釈するひとが圧倒的に多いですね。

このブログでも、「いいこと言うね」というエントリーで「流れに棹さす」を使用しているのですが、誤解されて、文意上、混乱を起こしていることでしょう。普通には使用しないほうが安全な"ことば"だといえるでしょう。


(3)気が置けない
(ア)相手に気配りや遠慮をしなくてよいこと
            ・・・・42.4%(44.6%)
(イ)相手に気配りや遠慮をしなくてはならないこと
            ・・・・48.2%(40.1%)

これは、本来の意味である(ア)の比率が4年前にくらべて減少し、逆転してしまっています。どうしたことでしょうか。

このことばについては、先日、"置く"の意味にポイントがあるという主旨で「誤用されるコトバ[置く]」というエントリーに書いております。


「気が置けない」というのも、使用するのがためらわれることばですね。


(4)ぞっとしない
  例文:今の映画は,余りぞっとしないものだった。
(ア)面白くない    ・・・・31.3%
(イ)恐ろしくない   ・・・・54.1%

(ア)を本来の意味としています。そういえないこともないでしょうが、辞書にはつぎのように記載されています。

・広辞苑第1版第2版   :記載なし
・日本語大辞典    :感心しない
・新明解国語辞典第4版 :感心しない

おもしろい・おもしろくない、だけではなく、もっと意味範囲の広いことばですね。

(イ)が多くなる理由は分かります。

「ぞっと」
・広辞苑第1版第2版   :身の毛のよだつさま。寒さの身にしみるさま。心底までしみとおるような感じをいう。
・日本語大辞典    :身の毛がよだつさま。身にしみて感じるさま。
・新明解国語辞典第4版 :(危険と背中合わせになっていた事に気づいて)身の毛がよだつ思いがすることを表わす。

「ぞっとする」と「ぞっとしない」が対応する語でないことが原因ですね。これは覚えなければならないでしょう。

一般的に、「ぞっとする」ではなくて「ぞーっとする」という言いかたをするのではないでしょうか。怖くないホラー映画でしたら、「いまの映画は あまり ぞーっとしないものだった」という言いかたもアリだと思います。


(5)やおら
  例文:彼はやおら立ち上がった。
(ア)急に,いきなり  ・・・・43.7%
(イ)ゆっくりと    ・・・・40.5%

(イ)を本来の言いかたとしています。ただ、単に、ゆっくりと、というイメージではなく、悠然として、というイメージがあります。

・広辞苑第1版       :そろそろ。おもむろに。しずかに。
・広辞苑第2版       :そろそろ。おもむろに。しずかに。やわら。
・日本語大辞典    :おもむろに。ゆうゆうと。静かに。
・新明解国語辞典第4版 :静から動に移る動作が、悠然として見える形容。


こういう調査結果が広く報道されることで、ことばを大切にしようという動きが起こればいいのですが、ことしの発表を報道する姿勢の大勢はケータイで漢字の字体を調べるという面に焦点をあてたものでした。やれやれ、と残念に思っていましたら、それ以外の面にふれた報道があらわれてほっとしました。

なお、下に列挙した新聞報道のうち最下行の「増える『交ぜ書き派』漢字力、進む二極化」には、文化庁のページに記載されていない"まぜがき"のことが書かれております。わたしは"まぜがき"には反対です。誤読の危険性がひそんでいます。単語全体をカナ書きするか、別の日本語で表記すればいいという立場です。


【新聞報道】
漢字どう書く?辞書より携帯 20代8割 国語世論調査(asahi.com 2007-09-07)
20代は「携帯で辞書代用」(iza! 2007-09-07)
「誰」は「勺」より使用頻度高い=文化庁調査(時事通信出版局 内外教育研究会 2007-09-07)
大騒ぎ「上や下へ」が59% 文化庁の国語世論調査 (共同通信 2007-09-07)
慣用句、目立つ誤用 文化庁が国語世論調査(CHUNICHI Web 2007-09-08)
若者は漢字大好き…ただし「読めても書けず」(iza!/産經新聞 2007-09-08)
増える「交ぜ書き派」漢字力、進む二極化(iza!/産經新聞 2007-09-08) SankeiWEB では、《漢字力、進む二極化…「振り仮名不要」「交ぜ書き」派増加》という、より分かりやすい見出しです。



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